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zoom RSS ライヴハウス四谷コタンとの格闘-49

<<   作成日時 : 2005/04/30 12:25   >>

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香港滞在最後の日、ボクたちは朝から仕事を始め、さっさと片付けて長い夜を楽しもうとおもっていたが、仕事が終わったときには夜八時を回っていた。

さあ、これからどうしようというときに、香港でのボクたちの仕事を手伝ってくれていた香港駐留の日本人女性が
「気に入るか分からないけれども」
と言って案内役を買って出てくれた。ボクも同行者もともかくビールにありつければ構わないという気分だったので
「行きましょう、行きましょう」
と言って彼女の背中をおした。

彼女が案内してくれたのは金融関係のビルが立ち並ぶ、日本でいえば大手町のような場所の裏側にある飲食店街で、ちょうど有楽町のガード下をググーッと広げたような一角であった。そこにはいくつもの店が軒を連ね、驚くことに各店が店の前の公道だか私道だか分からないが、テーブルを無数に並べ、客をとっている。そして客たちはビールをラッパ飲みし、気勢を上げている。ボクと同行者は目を丸くして言った。
「酒場だあ。酒場があったあ」

この場所はイギリスが香港を植民地にしていた時代の中心部で、今でもその名残りが色濃い地域だそうだ。酒場を埋め尽くしているのはほとんどが香港に駐留している白人層で、香港人はまず足を運ばないらしい。ボクたちは彼女おすすめのタイ料理屋のテーブルに席を作ってもらい、青島ビールを飲み始めた。

「気に入ってもらえたかしら」
ボクと同行者は声をそろえるように言った。
「こういうところなんですよ、ボクたちが一番落ち着くのは。何だか出し惜しみされてたみたいだなあ」
同行者がボクに言った。
「こんな場所があるなら、何泊だって出来ますねえ」
「本当だよなあ。全部の店をハシゴしたいくらいだ」

雑然と広がる道端の店は、ともかく客と、ビールと料理を運ぶ店員でゴッタ返していて、テーブルの角で飲んでいるボクに、店の奥を目指す白人客がドスドスぶつかっていく。
「ソーリー」
「ノー・プロブレム」
本当にノー・プロブレムで、ボクたちは楽しくって仕方なかった。
「こんな場所なら、ギターを弾いてうたってもノー・プロブレムだな」
「そうですね。持ってくれば良かったじゃないですか」
「きみがそういうモノは持ってくるなと言ったんじゃないか」
「ハハ、そうでしたっけ。あんまり気分が良いんで、どうだったか忘れてしまいました」
テーブルには彼女が頼んでくれたグリーン・カレーやナンやチキンの串焼きが並んだ。

「しかし日本軍も、よくこんな方まで侵攻してきたもんだよな」
「ええ、近いといっても飛行機で四時間かかりましたからね。当時の日本軍はやっぱり力があったんでしょう」
「だけど戦争はいやだな。当時日本は中国に日本酒を輸出して、こっちの人たちと友好を深めるべきだったんだ」
「それじゃあイギリスがアヘンを持ってきたみたいなもんじゃありませんか」
「いや、だから中国の人たちとこんな風に日本酒を飲んで、どうです、美味しいでしょ、と分かってもらう訳だよ」
「そんなこと始めたら、ケシカランと言われて、アヘンを積んだイギリス船が中国軍に撃沈されたみたいに、日本酒を積んだ船も沈められてましたよ」
「ああ、それで日本酒戦争が勃発してしまう訳か」
「そうです。ですから中国と日本の戦争は、どうしたって避けられなかった訳です」
ボクたちはここでは遠慮なく飲み続けた。

あとから店に入ってきた初老の白人紳士が、ボクたちのテーブルを通りすぎるときボクたちを見て笑った。お前たちもやっているな、とおもったのか、それとも別のことをおもったのかは定かではない。ただその笑顔は、酒好きに共通する好感のこもったものだったとボクは信じている。
「ボクはこういうのが文化だとおもうんだよ」
「そうですね。少なくとも悪いもんじゃないですね。国籍の違うこんなにたくさんの人たちが、こんなに楽しそうにしていられるんですもんね」
「ここから陸続きの場所では争いごとをしてる訳だろ。人類ってのは何なんだとおもうけれども、こういうところにいると、人間って良いもんだなあっておもっちゃうよね」
「桜井さん、酔っ払っているでしょ」
「きみはどうなんだ」
「良い気分です」

ケダモノと化したボクたちは、ずい分いい時間まで飲んでいた。しかしこの場所では、ボクたちはケダモノではない。ここからホテルまで歩いて行こうとして、香港人たちの街に出た瞬間にケダモノになってしまう。だからこの夜ボクたちは、この場所に案内してくれた日本人女性が拾ってきてくれたタクシーで、そっとこの場所を離れホテルに戻った。だから、この夜ボクたちがケダモノになっていたことを知っている香港人は、このタクシー・ドライバー唯一人である。


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