Walking on the street-270
仕事場のすぐそばの食堂に飛び込む。すぐに仕事場に戻ってそいつを片づけなくてはいけない状況なので、店など選んではいられない。ボクもたまにはそのように忙しいこともある。
その食堂は混んでいる。相席でもちろん構わないから、土木労働者風の人たちが陣取っているテーブルに空きを見つけて
「ここ、よろしいですか」
と声をかけたら
「ああ」
と許しをもらえたので席について日替わり定食を頼む。
その店で一番早く出てくる定食を頼んだはずだがそれがなかなか出てこないので困惑する。
その内に土木労働者風の人たちが昼食を終え、タバコを一吹かしして店を出ていったら、そのテーブルに座って日替わり定食を食べている初老のご婦人がいたからボクは驚いて
「同じテーブルで失礼しています」
と言ったらそのご婦人は
「いえいえ、大丈夫ですよ」
と温和な表情で笑ってくれたのでボクは嬉しくなって
「この店には、よく来られるのですか」
と言ったらそのご婦人は
「私はね、もう三十年もそこにある会社でパートで働いているんですよ」
と言う。だからボクは
「あの会社ですか。ここいら辺じゃ有名な会社ですよね。へええ、そうですかあ」
と言う。ご婦人は
「アナタもこの近所なの」
と言うから
「ええ、すぐそばです」
と答えたら
「私の家はね、ほら、あそこに国道があるでしょう。そこから多摩川の方に下ってくると高速道路があってね、分かる」
という話しになっていったから
「これは困ったことになってきたぞ」
とおもっていたらそのご婦人が
「アナタはこの近所にいつから住んでいるの」
と言うので
「十年前からです」
と答えたら、ご夫人は
「ふーん」
という顔をしてからボクに
「それじゃあ、生まれはどこなの」
と言うので
「大井町です」
とボクが答えたら
「それどこ」
と言うので
「えーっと、品川区にある町なんですけどね。分かりませんよね」
とボクが言うとご婦人は
「たぶん、行ったことはあるのよ。でもそれがどこにあるのか分からないなあ、アハハハ」
と笑っているのでボクは
「ボクにも、高一になる娘がいましてね。こっちで生まれたんですが。品川のボクの実家のおばあちゃんちに行くことを、東京に行くって、いつも言ってます」
と言ったらご婦人は
「へええ、アナタ、お子さんがいるの。その高校生の娘さん一人だけ」
と言うから、隠しても仕方ないので
「その下に、小四の息子もいます。それだけです」
と言ったらご婦人は
「私はね、子供が三人いて、孫が七人」
と小声で言って可愛らしく笑ったのでボクが
「へええ、それはお幸せですねえ。もうすぐ正月だからお年玉の方も大変でしょうけど」
と言ったらご婦人は
「大変なだけよ。お正月なんてなければ良いって毎年おもう」
という実感と、それだけではないんだという表情をしていたのでボクが
「で、良いもんでしょう」
と言ったら、孫が家に孫たちが一斉に来たときの大変さと、その言葉からもれる嬉しそうな話しをボクにきかせてくれてから、ご婦人はその店を出ていった。
ボクは一人その店のテーブルに残された。ボクが頼んだ定食はまだ出てこない。
その食堂は混んでいる。相席でもちろん構わないから、土木労働者風の人たちが陣取っているテーブルに空きを見つけて
「ここ、よろしいですか」
と声をかけたら
「ああ」
と許しをもらえたので席について日替わり定食を頼む。
その店で一番早く出てくる定食を頼んだはずだがそれがなかなか出てこないので困惑する。
その内に土木労働者風の人たちが昼食を終え、タバコを一吹かしして店を出ていったら、そのテーブルに座って日替わり定食を食べている初老のご婦人がいたからボクは驚いて
「同じテーブルで失礼しています」
と言ったらそのご婦人は
「いえいえ、大丈夫ですよ」
と温和な表情で笑ってくれたのでボクは嬉しくなって
「この店には、よく来られるのですか」
と言ったらそのご婦人は
「私はね、もう三十年もそこにある会社でパートで働いているんですよ」
と言う。だからボクは
「あの会社ですか。ここいら辺じゃ有名な会社ですよね。へええ、そうですかあ」
と言う。ご婦人は
「アナタもこの近所なの」
と言うから
「ええ、すぐそばです」
と答えたら
「私の家はね、ほら、あそこに国道があるでしょう。そこから多摩川の方に下ってくると高速道路があってね、分かる」
という話しになっていったから
「これは困ったことになってきたぞ」
とおもっていたらそのご婦人が
「アナタはこの近所にいつから住んでいるの」
と言うので
「十年前からです」
と答えたら、ご夫人は
「ふーん」
という顔をしてからボクに
「それじゃあ、生まれはどこなの」
と言うので
「大井町です」
とボクが答えたら
「それどこ」
と言うので
「えーっと、品川区にある町なんですけどね。分かりませんよね」
とボクが言うとご婦人は
「たぶん、行ったことはあるのよ。でもそれがどこにあるのか分からないなあ、アハハハ」
と笑っているのでボクは
「ボクにも、高一になる娘がいましてね。こっちで生まれたんですが。品川のボクの実家のおばあちゃんちに行くことを、東京に行くって、いつも言ってます」
と言ったらご婦人は
「へええ、アナタ、お子さんがいるの。その高校生の娘さん一人だけ」
と言うから、隠しても仕方ないので
「その下に、小四の息子もいます。それだけです」
と言ったらご婦人は
「私はね、子供が三人いて、孫が七人」
と小声で言って可愛らしく笑ったのでボクが
「へええ、それはお幸せですねえ。もうすぐ正月だからお年玉の方も大変でしょうけど」
と言ったらご婦人は
「大変なだけよ。お正月なんてなければ良いって毎年おもう」
という実感と、それだけではないんだという表情をしていたのでボクが
「で、良いもんでしょう」
と言ったら、孫が家に孫たちが一斉に来たときの大変さと、その言葉からもれる嬉しそうな話しをボクにきかせてくれてから、ご婦人はその店を出ていった。
ボクは一人その店のテーブルに残された。ボクが頼んだ定食はまだ出てこない。
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