Walking on the street-143

今日、凄い言葉を耳にしたので、そのことを書く。

ボクは仕事関係の男性Dさんと話しをしていた。あらかた仕事の話しが終わったので
「どこかでお茶でも」
ということになる。Dさんとは何度か酒で同席したこともある間柄だが、それほど親しいという訳でもない。それでもボクはDさんを嫌いではないし、Dさんも、仕事がすんでこのまま帰るのも何だなあという風情なので、ボクたちは近所のレストランに行って
「お茶だけなんですけど、良いですか」
と言ったらその店のお母さんが
「どうぞどうぞ」
と言ってくれたので、ボクとDさんは店の特等席に座った。

「お母さあん、ここはタバコを吸っても良い席でしたよねえ」
と叫んだらお母さんは
「はいはい、結構ですよ。どうぞ肺ガンになるまで吸ってて下さい」
と言って笑っているから、ボクはセブンスターに火をつけて、注文をとりにきた店員さんにアイス・コーヒーを頼む。Dさんは温かい昆布茶を頼んだ。

Dさんはボクより三つか四つ年下の男性で、ボクはDさんのことを悪くはおもっていないが、本当の意味で仲が良い訳でもない。だからボクはDさんが気を悪くするような事柄は、もう仕事も終わっているしやめようとおもいながら、アイス・コーヒーにガムシロップを入れていた。

そのとき、昆布茶を飲みながら、Dさんは言った。
「桜井さん、いつかきいてみたいとおもっていたんですが、酔いつぶれることの真髄ってどんなものなんでしょうね」
ボクは、その言葉が半分以上は冗談だとおもってDさんの顔を見たら、Dさんの表情があまりにも真剣だったので、ゲラゲラ笑い出す訳にもいかず
「それはどういう意味ですか」
と言ってみたら、Dさんは
「桜井さんはいつも酔っ払っています。それで例えば人に担がれて店を出るとか、そういうことをしているのを私は見ているんです。そういうときの気持ちってのは、どんなものなんでしょうね」
ボクはDさんがボクから何をききたいのか分からなかったが、Dさんがそんな風に酔いつぶれる人ではないことは分かっているので
「要するに、真髄、てことですか」
と言ったらDさんは
「そうです。酔いつぶれることの真髄です」
と言った。
「真髄ですか。酔いつぶれているのに真髄も何もないとおもいますが」
Dさんは言った。
「でもね。そんな風に私はなりたくありません」
ボクは言った。
「だったらそのままで良いではありませんか」
Dさんは言った。
「そうですね。桜井さんを見ているとそんな気もしてきました」

それにしても
「酔いつぶれることの真髄」ってのは、何とも迫力のある言葉だ。

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