Baseball boy-13

夕べからの雨が朝になっても降り続いていた。野球の練習は
「自宅待機」
ということで、ユニフォームは着ずに朝飯をすませ、ボクは新聞を広げて居間に寝そべって、小五の息子は図書館で借りてきた「キャプテンはツライぜ」という本をソファーで読んでいた。吹奏楽部の高二の娘は、足を痛めているにも関わらずいつもと同じに朝早く部活に出かけた。カミさんは久しぶりにのんびりした朝を迎えている。


前日、その息子が所属する野球チームが、唯一勝ち残っている春の公式戦の決勝トーナメントの初戦が行われた。
そのトーナメントに歩をすすめるには、ブロック予選を勝ち抜くことが絶対条件なのだが、彼らはどうにかそのブロック戦を勝ちあがり、昨日のトーナメント初戦を迎えた。どうにかこうにか勝てるチームには、彼らは成長してきていた。

試合を行ったのは立川市の最西端の横田基地の庭といってもいいような、空の広いのどかなグラウンド。あたりに民家などまるでない。しかし、のどかなのはいいが、ときより米軍の軍用機がグラウンドにいるボクたちのすぐ頭の上を轟音と共に通り過ぎて、その大きな機体の影をグラウンドに落としていく。少し先に見えるフェンスの向こうがアメリカなんだと考えると、回りに民家も商店も何もないそのグラウンドが、さしずめ映画「フィールド・オブ・ドリームズ」の舞台のようにおもえなくもないと、ボクはおもっていた。日差しは強く気温も高いが、強くも弱くもない風が気持ち良い。

試合開始3時3分。わがチーム先攻で始まった試合は、先発のシゲルがヒットらしい当たりをほとんど打たれない好投を続けるも、前回六年生チームと戦ってみせたときとは逆の、マズいプレーが要所に出てしまい、常に先手を取られる展開。何でもない内野ゴロが一塁でアウトを取れない。外野からバックホームの中継が中途半端。攻めても相手がミスでくれたチャンスを、貪欲とはほど遠い意味のない走塁でモノにすることが出来ない。次の塁を狙う姿勢が弱かったり、狙うのは良いが単なる暴走だったりで、同点にまでは追いつくが追い越せない。そして後攻の相手チームにすぐに点をやってしまう。選手たちは明らかに萎縮していた。

四回裏、5対8でリードされている相手チームの攻撃、時刻は4時20分を回っていた。大会規定で
「試合開始から1時間30分を過ぎて次のイニングに入らない」
というルールが適用されているので、わがチームは相手チームのそのイニングの攻撃を十分以内に片づけて、五回表に持ち込まなければ敗退ということになってしまう。ベンチの監督コーチは叫ぶ。
「サッサッと終わらせて戻ってこおい」
「ボール球はいらねえんだよお。全部ど真ん中に投げて打ってもらって終わらせろおお」
グラウンドの選手たちは分かっているのか分かっていないのか、ベンチはじめネット裏で応援している関係者、お母さんたちをハラハラさせたが、どうにか制限時間3分前に四回裏の攻撃を切った。

「ふーっ、まだ少しだけツキは残っているかな」
とつぶやいたあと監督は、ベンチ前で円陣を組んだ選手たちに叫んだ。
「いいかあ分かっているなあ、最終回だ。お前たちは3点リードされている。4点だ、4点取るぞお」
キャプテンが円陣の中にもぐりこんで声を上げた。
「4点とるぞお」
「おおおー」
威勢よく声を上げたベンチ一丸も、度重ねた凡ミスの代償は簡単には取り戻せなかった。
「いいかあ、ともかくつなげろお」
「よおし先頭が出たぞお。もういくら時間かけても良いからなあ、大事にいくぞお」
ワンアウト三塁一塁のチャンスは作った。
「よおし、ともかくボール球には手を出すなあ」
相手チームには他にピッチャーがいないらしく、続投の相手先発ピッチャーはだいぶバテているようで、球は明らかに荒れてきていた。勝つチャンスはボクたちの前にまだあると、誰もが信じていた。
しかし、一本が出ない。そして最終回のここにきて、三塁ランナーのマズい走塁ミスが出てチャンスの芽を小さくしてしまった。もはやここにきてミスを出すチームに勝利の女神は微笑まない。そのままゲーム・セット。

試合後、この試合でミスをした選手たちの目から涙が流れていた。キャプテンのケイスケは気丈に振る舞っていたが、その姿を見ていたらボクまで涙が出そうだった。
悔しい。この日はいつものようなプレーが出来なかった。これだけミスをしたら勝てる訳がない。しかし得点の取り方はよかったし、何より先発のシゲルはナイス・ピッチングだった。キレイに打たれたタイムリーはレフト・オーバーのツーベースだけだったのだ。それだけに、数々のミスが悔やまれて仕方のない試合だった。これで春の公式戦は終わりだということも、悔しさを増幅させた。

監督は選手たちを「フィールド・オブ・ドリームズ」の外の芝生の上に集め、立ったまま、静かに、この日の敗因を選手たちと話しをしながら語っていった。あのときのプレーこのときのプレー、たくさんの敗因がこの日の試合にはちりばめられてしまった。こうしたら勝てない、という試合をしてしまった。そうして改めて強く感じたことは
「野球はいかにミスをしないか」
というスポーツであるということだ。

監督が、ボクにも選手たちに一言、とうながしたのでボクは選手たちの前で
「悔しいい」
と叫んだ。
選手たちの顔にも悔しさがにじんだ。

ボクたちはこのチームを三年生のときから見ているから、五年生になったそのチームが、そのときに比べたら見違えるほど力をつけてきたのを見ている。だからそのチームの選手たちに勝利の味、あわよくば優勝の喜びを味わってほしいとおもっていた。しかしまだまだなのだ。本当に強いチームになるためには、もっともっと練習しないといけないし、もっともっと野球が好きになって、心から楽しそうにプレー出来るようにならなくては駄目なのだ。

その試合には、息子が所属する球団の代表も観戦に来てくれていたのだが、その人の一言がとても印象的だった。
「お前たちさあ、野球をもっと楽しそうにやれるようにならないとなあ」

そうしてボクたちは何台かの車に分乗して「フィールド・オブ・ドリームズ」をあとにした。これまでもたくさんの負け試合は経験してきたが、この日の負けは格別に悔しい敗戦だった。何故こんなにも悔しいのかというと、さっきの代表の言葉に尽きる。わがチームは
「楽しんで野球をやる」
レベルではまだないということが、歴然とはっきりしたからだ。野球は甘かない。だけど楽しんでやるものである。



そうして雨模様の今朝は、息子とプロ野球の新聞記事を見ながら
「スンちゃんホームラン打ったんだね」
とか
「ツバメ六連勝だってさ」
などと話していたらチームから
「今日の練習は中止です。各自グローブの手入れをするなり、ストレッチをするなりしていて下さい」
という電話連絡網が回ってきた。









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