谷保路地裏の赤提灯-92

WBC、ワールド・ベースボール・クラシックの決勝で、ジャパンが韓国を破り世界一に輝いたその夕刻、ボクはすごすごと仕事を片づけ、谷保路地裏に向かった。

WBCでのジャパンの勝利は、ボクたちがおもっている以上にはるかに大きな意味を持っている。
まず野球、ベースボールは、世界から見たら、オリンピック競技からはずされてしまうようなスポーツなのである。野球が盛んな日本という国に暮らしていて、その国のプロ選手がアメリカのメジャー・リーグに行って活躍しているのを当たり前に眺めているとそのことをつい忘れがちだが、野球、ベースボールを盛んに行っている国というのは、大雑把にいえば、世界の十分の一の国と地域に過ぎない。ベースボールというスポーツが何故サッカーやマラソンのように世界に普及していかないのかにはいくつかの要因がある。
これは私見だが、ベースボールには、他の競技にはない大きなハンデがある。それはまず、その競技がアメリカで生まれた国技だからという点である。

日本には、そのアメリカと戦争を始めるずっと以前からベースボールは野球として伝わって根づいていた。その根は、アメリカに完膚なきまでにやっつけられたあともしっかりと残っていて、終戦後、野球熱はこの国ですぐに再燃した。だからその国がどうのこうのという前に、野球、ベースボールはよく出来た魅力的で素晴らしい競技な訳で、日本の人たちはその競技に精通しようとしたのだし、また娯楽としても楽しもうとした訳だ。大学野球からプロ野球、もちろん高校野球へとそのすそ野は広がった。そうして川上、長嶋、王、ひいては松井、イチローがボクたちに夢を見せてくれた。そうしてこの国に、本格的にベースボールは根づき、花を咲かせるようになった。

そのように魅力的で素晴らしいベースボールというスポーツが、世界の十分の一の国にしか伝わっていない理由は、その競技を生んだアメリカという国が、実は世界各国、特にヨーロッパからヒール扱いされているに端を発しているようにおもえなくはない。
「お前たちが作った土壌でなど、勝負するものか」
サッカーに熱心な国は特に、そうおもっているのかも知れない。だからアメリカもかたくなになって
「ベースボールは、メジャー・リーグのワールド・シリーズのチャンピオンこそ世界一だ」
と、そのわが国の国技を特別扱いしていたのかも知れない。しかしこれまではそれで良かった。WBC、ワールド・ベースボール・クラシックを始めるまでは、それで良かった。しかし、アメリカ、というよりメジャー・リーグ機構の主導で始まったこの大会は2006年、そして今回の2009年大会を迎え、その様相を大きく変え始めている。その大会にエントリーしている各チームが、本気な訳である。そのことをアメリカがどうおもっているのか知らないが、少なくともこっちは本気な訳だ。韓国も、キューバも、ベネゼエラも、プエルトリコも、その大会に参加したチームはすべて、間違いなく本気だった。そのことはホスト国であるアメリカに重く感じてもらいたい。


谷保路地裏の婆娑羅に上がる。その板の上にいた野球好きの常連客たちに
「おめでとうございます」
と声をかける。すると
「コングラチュレーション」
とか
「おめでとうおお」
の声が上がる。めでたい。握手まで求められる。こっっちもそのつもりだからそれに応じる。


正直に言うと、ボクはジャパンが世界一に輝いたその日、あまりにも嬉しくてたまらなかった。どうして良いか分からないくらいだった。だから谷保路地裏の婆娑羅という店に行けば、どうにかなるだろうとおもってその店に出かけた。そうしてボクたちは、板の向こうの店主もひっくるめて、ずい分勝手な野球談義に花を咲かせた。
「俺はイチローを一番からはずさなかった原監督の采配を評価するよ」
「このあいだ会ったときには、イチローを一番からはずせって言ってたじゃないですか。あれ、先発からはずせだったかな」
「俺はそんなことは言っていないよ。お前のきき間違いだ」
「ホッピーのおかわり下さあい」
「でね、日本の防御率だよな。大したもんだぜ」
「すみませえん。合間でポテトサラダ下さい」

この日はたぶん、野球、ベースボールにとって特別な日になったはずだ。五万人で埋まったドジャー・スタジアムで、普段そんな場所には縁のないジャパンと韓国が、そこで名勝負を繰りひろげた。それは凄い試合だった。大袈裟でなく、いつまでも語り草になるような出来事だった。それを目撃したボクたちは、始まってまだたかだか二回目のWBC、ワールド・ベースボール・クラシックという大会が、真に世界一のベースボール・チャンピオンを国と地域レベルで決める大会に育っていくことを切に願わない訳にはいかない。

四年後には、もう少しルールを整えてそのWBC、ワールド・ベースボール・クラシックが行われることを願っている。
第二次ラウンドの五試合で、ジャンパンが韓国、キューバ、アメリカとしか試合をしないで世界一なんて言えないだろう。
「アメリカめ、少しは溜飲を下げてみたらどうだい。それともアンタんところのワールド・シリーズ・チャンピオンが、やっぱり世界一なのかな」
などとほざきながら、婆娑羅店主に久寿玉という酒をもらう。
それにしてもこの日は良いものを見せてもらって、酒も旨かった。そしてジャパンが優勝したから言うのではない、重ね重ね今回のWBCは大成功だったとおもう。
大会自体の問題点も明らかになった。だけどベースボールが素敵なスポーツだということは改めてはっきりと世界に示すことが出来たのだ。人気漫画の「メジャー」ではないが、子供たちが夢見るような素晴らしい舞台作りに、本格的にのり出していただきたい。

そうしてこれだけは言っておきたい。このWBCで二大会連続で世界一に輝いたジャパンの姿は、ボクには人類が月に降り立った瞬間と同じといって良いくらい歴史的な瞬間だった。それくらいドエライことを彼らは成し遂げそれをボクたちに見せてくれたのだ。


婆娑羅店主に久寿玉のおかわりを頼んだら
「もう帰りなさい」
と店主は言う。しかしこのような場合、決してその店の店主が薄情な人物なのではなく、ボクの方に問題があることはどこからどう見ても明らかなのでそれに従う。第一、この店から出入り禁止にでもなったら、ボクには一大事である。

勘定をして路地裏に出る。
「今日は良い日だったなあ」
とおもいながら、日頃野球のグラウンドで見ている子供たちのもも上げをマネてピョンピョン跳ねてみる。そういうマネをするから、翌朝は余計に酒が回っていることになる。

















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この記事へのコメント

P太郎
2009年03月25日 23:34
WBCも終わったんだから、少しはワンマンライブの集客活動とベースを弾きながら歌う練習をしたらどうなんだ…

日曜日はOUR HOUSEだぞ!
ikepin
2009年03月26日 00:36
アホ!

そんなことしている暇があるなら、コタンで集客の多い方の真似だけでもしてみろ!
君の生命線じゃないのかい? 違ったらごめんよ( ̄Д ̄;)
桜井 雄作
2009年03月26日 15:18
、、、、きみたち、
ボクのことをまったく信用していないような物言いだが、
人のことを何だとおもっているんだい。
P太郎
2009年03月26日 18:49
君がする集客といったら飲み屋にポスターを貼るぐらいじゃないか…
桜井 雄作
2009年03月26日 21:18
そんなことないよ。
ラーメン屋にも貼ってもらってるんだ。
P太郎
2009年03月27日 08:42
貼るだけじゃだめだよ…
稲野真人
2009年03月27日 17:11
 
 
 
 楽しみにしてるんです。
 
 
 
 
桜井 雄作
2009年03月27日 23:14
バンドの連中は色々言ってはいますが、

ボクも楽しみにしているんです。



桜井 雄作
2009年03月30日 02:04
ほぼシラフで、先ほどスタジオから帰ってきました。
青っこは、面白い奴でして、いやあまったく面白い奴でしてね。
今度のワンマン・ライヴに向けて不安材料はたくさんあるんですが、
いやあ青っこは面白い奴だ。

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