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zoom RSS 谷保路地裏の赤提灯-82

<<   作成日時 : 2008/08/14 22:17   >>

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お盆期間中も、ボクは仕事をしている。しかしお盆期間中であるから仕事場の電話が鳴ることは少ない。いくらボクたちが
「カレンダー通りに仕事をしていますよお」
と言ってみたところで、世間がお盆モードであることには、例年通り変わりはない。高速道路の渋滞をよそに、仕事をしながらも何となくのんびりしている。
だから世間がお盆モードに突入しているそのときに、谷保路地裏で赤提灯を灯している婆娑羅に、仕事を少し早く切り上げて入っていく。外はまだまだ明るい。

婆娑羅に上がると、混んでいる。この時間帯でほぼ満席状態というのは珍しいので驚く。幸いL字の短い方のケムッかぶりの奥の板が空いていたのでそこにもぐりこむ。店主に瓶ビールを頼む。

「お盆には東京から出ていく人も多いけど、残っている人はこんな風にのんびり酒場にやって来るのかも知れないね」
と店主に言う。店主はボクに瓶ビールとグラスを差し出して
「そうかも知れませんね」
と言ってから、忙しく先客たちの注文したモツ焼きやツマミに当たりはじめた。最近婆娑羅ではホッピーも人気で
「中身下さい」
という客がその時間帯で一人や二人ではない。中身というのは、ホップと混ぜる焼酎のことだ。

ビールを飲みながら混雑している婆娑羅の板の上を眺めたら、この場所が婆羅羅という店になってからの常連客のあいだに混じって、L字の長い方の板の上でホッピーを飲んでいる歯医者のK先生がいるのを見つけてアイサツする。
「先生、いらしてたんですね。今晩は日本とキューバ戦ですよ」
ボクがそう言うとK先生は
「ああ、そうですね。今日はテレビでやるんですか」
と言う。それをきいていた焼き場の店主がカシラやタンに塩をかけながら
「確か教育テレビでやるはずですよ」
と教えてくれたのでボクは驚いて
「教育テレビでですか。他の局は違う競技で忙しいのかなあ」
と言ったら婆娑羅店主は焼きあがったモツ焼きを皿の上に盛りつけながら
「そうなんですかねえ。今度のロンドン・オリンピックからは、野球は競技からはずされるらしいですしね」
と言って、モツ焼きの皿を次々に板の上の客たちの前に置いていく。ひょいと焼き場を見たら、丸々と大きなサンマが、テツ串に刺されて焼かれている。
「旨そうだなあ」
とボクが言ったら、L字の長い方のK先生が
「それはアタシが予約していたものでね、もう一本あるそうだよ。今日のは格別大きいんだってさ」
と言う。黒板に書かれたそのメニューを眺めたら
「新サンマ炭焼き700円」
とある。どんなにか食べてみたかったが、この晩のボクには予算オーバーなのでボクは
「合間で構わないから」
と言って、カシラとシロとガツを頼む。
これだって大変なゼイタクである。

久寿玉を頼む。そうしてそれをチビチビ飲んでいたら、L字の長い方の板の客たちが勘定をして店を出ていったので、ボクはその板でホッピーを飲んでいるK先生の隣りに席を移す。
「すみません。せっかくなので一緒に飲ませて下さい」
そうしたらK先生の奥さんが婆娑羅に入ってきてK先生の隣りに座ったから
「あれえ、お久しぶりぶりです」
と言ってアイサツする。K先生同様、K先生の奥さんとは、この場所が文蔵という店だったときから、どれだけ同席させていただいたか知れない。ボクはそういう諸先輩たちの前で、度重なる色々な意味での失敗を繰り返してきたが、今もこうして婆娑羅という店で、肩を並べて酒を飲ませていただいていることが、どれだけ有難いことか良く分かっている。それでも今だ失敗を繰り返しているこの馬鹿野朗と、K先生夫妻は杯を重ねて下さる。
「いいかい、今度あんなマネをしたら、アタシはアナタとの関係をなかったことにするよ」
「すみませんでした。ボクは何も命を粗末にしようと考えている訳ではないのですが、ご心配おかけしたことは分かっています。申し訳ありませんでした」
「ところで、今晩は婆娑羅のそばを食べていこうとおもってるのよお」
「今日はそば、あるのかなあ」
「ありますよ。もう茹でますか」
「茹でて。それで帰りましょう。アナタはどうするの」
「ホップが残っているから、もう少し飲んでいくよ」
「久寿玉下さい。それから、黒板に書いてある茶豆はあるかい」
「ごめんなさい。今夜は終わってしまいました」
「そうかあ。食べたかったけどなあ。それじゃあポテトサラダ下さい」
それから婆娑羅には次々と客が入ってきて
「ホッピー下さい」
とか
「生ビール」
「こっちは中身だあ」
などと騒がしい夜になっていった。

そうして、何の利害関係もない客同士が、酒場の板の上でワイワイガヤガヤしている感じというのは、日常の中なのだけれども、その日常から少し外れたとてもゼイタクな時間なんだと、ボクはいつもおもう。

何杯目かの久寿玉を頼んで
「今晩はこれで帰るよ」
とボクが店主に勘定を頼むと店主は
「それが良いですよ」
と笑顔で言った。
夜はとっぷりと暗い。









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コメント(2件)

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いつだって瓶ビールを飲んでガツを焼いてもらって久寿玉で酔っ払うというパターンだが、婆裟羅には他にメニューはないのか…?
P太郎
2008/08/15 12:37
馬鹿を言うな。
確かにボクはそうだが、婆娑羅には三多摩一といって良いくらい旨い酒肴がワンサカある。今度その品書きのレポートをここに書くよ。
桜井 雄作
2008/08/15 19:26

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