谷保路地裏の赤提灯-38

テレビの野球中継はジャイアンツ戦しか流さないので、それを見ている野球好きな子供はジャイアンツ・ファンになりやすい。

ボクの家の小学二年の息子も、ご他聞にもれずジャイアンツを応援していた。慎之介が一番のお気に入りだ。しかし三年前からボクがヤクルト・スワローズを応援し始めてから今に至るまでのあいだ、そんな父親の影響を受けて少しずつスワローズに肩入れするようになった。ボクの家ではテレビ・ゲームは野球だけは許しているが、コンピュータのチームと対戦する際、自軍は決まってジャイアンツだった息子が、最近はスワローズばかりを選んでいて
「お父さあん、ドバッちゃんて代打で出すと必ずヒット打つよ」
とか
「ガトームソンてスライダーがスゴイんだねえ」
とか
「ねえ、どおしてラミちゃんてあんまりホームラン打たないの」
などと言って喜んだり嘆いたりしている。だからときたまボクと一緒にマン対マンの対決をするときには、スワローズ対スワローズということになってしまう。どちらも譲らないから仕方がない。

ボクがヤクルト・スワローズを応援するようになったのは、文蔵に通うようになったからである。本で読んで、文蔵さんが大変なヤクルト・ファンだということは知ってはいたが、ここまで熱烈なファンだとはおもっていなかった。
ある晩、隣りで飲んでいた長年の常連客がそっとこんなことを話してくれた。

「最近は丸くなったからしなくなったけどねえ、何年か前までラジオでヤクルトがひどい試合をしているとさ、こう、ラジオのコードを持ったかとおもうとコンセントからブチッと抜いちまうんだよ」
ボクは驚いて言った。
「へええ、普通はいくら頭にきてもスイッチを切るどまりですよねえ」
「そうだろう、それがコードをブチッだからね。そんなときは客はみんな板の前でしーんとしちまってな」
「アハハハ、それはちょっと軽口も叩けない状況でしょうねえ」
「そうだろう。だから俺たちはさ、いつかラジオを叩き壊す日がくるっておもっていたもんなあ、ハハハ」

ボクは、幸か不幸かそういう場面に出くわしたことはない。しかし、いかにも文蔵さんらしいその話しがボクはとても好きだ。念のために書いておくが、文蔵さんは断じて乱暴者なのではない。ヤクルト・スワローズに対して熱いのである。

だからその反対に、ヤクルトが勝ったときの喜びも大きい。ボクは大勢の客と一緒になって何度、板の向こうの文蔵さんとハイタッチしたか分からない。今その情景を憶いだすと、そのときの文蔵さんはまるでホームランを打ってベンチに戻ってきた選手のようだ。そしてそれこそが、ボクがヤクルト・スワローズを応援するようになった理由である。ヤクルトが勝つと楽しいのである。

ある晩、試合の内容は忘れてしまったが、ヤクルトが劣勢をものにして逆転勝ちしたときの文蔵さんの喜びようといったらなかった。そしてボクはその空間に身をおいていて、たった一勝で文蔵店内がこれだけ楽しくなるのだから、ヤクルト・スワローズが優勝でもしようものならどんなにか楽しいだろうとおもった。その場面に立ちあいたいと心底おもった。そうしてボクは、東京ヤクルト・スワローズを応援するファンとなった。

最近ボクの息子は
「古田が選手をやめちゃうかも知れないんだってさ」
と言って心配している。
「古田好きなのか」
とボクがきくと
「うん、古田ってお父さんに顔が似てて好きなんだ」
と言った。
ボクの息子は、古田のことをちゃんと認識出来ているのだろうか。

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この記事へのコメント

Non
2006年08月28日 22:23
中学1年の時、クラスメイトが「うちの隣のお兄ちゃんが、ヤクルトに入ってん」と発言して以来、ヤクルトファンになりました。

そのお兄ちゃんが、今に比べたらまだまだだった頃、つまり今よりはコンタクトを取りやすかったであろう頃には、実家にサインをもらいに行ったりもしました。
お父さんはとても優しくて、お母さんはちょっと恐いけど顔はお兄ちゃんにそっくりでした。


そしてそのお兄ちゃんは、今では監督にまでなっちまいました。
遠いところに行っちゃったねぇ・・・フルタクン・・・


ちなみに、Nonが埼玉の大学に進んだ理由の片隅に、「ヤクルトのファームが近いから」という不純な動機がちょっぴりあったことは、お母さんには内緒です♪
桜井 雄作
2006年08月30日 21:36
野球好きの文蔵さんの店には、たくさんの野球選手も来店していたそうです。文蔵で、そんな話しをきくのも楽しみのひとつでした。
Nonさんのお母さんには、どうやったって連絡のつけようがないので安心して下さい。

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