Walking on the street-89
先日都心に出る所用が出来たので、その帰りに糀谷の「ひさ奈」に寄った。「ひさ奈」はそば屋である。
「ひさ奈」に行くのは二度目のことで、最初にボクをこの店に引っぱっていったのは、今やバンド仲間のP太郎で
「ともかく旨い店だから来い」
と言われてボクはその店に行った。去年の十一月のことである。
「ひさ奈」とはそれ以上に縁があって、その店の主人は、ボクやP太郎や荒井潔や池田が通っていた都立Y高校の同窓であって、なおかつライバル・バンドの「ローリング・ハブラシ」を率いるリーダーでベース・マンだった。ボクは彼らを
「女の娘にモテル」
ということと
「良い演奏をしやがる」
という理由だけで敵視していた。それはメンバーの中でボクだけの気持ちだったのだろう。それが証拠にP太郎は、「ひさ奈」の主人の青ちゃんとは個人的な関係を持っていたし、荒井にしても、大田区出身のこのバンドの連中とはつきあいがあったようだ。池田のことは知らない。何しろ奴は今どこにいるのかも分からない。いつか会えたら訊いてみよう。
ともかく、ボクは「ローリング・ハブラシ」を敵視していた。
去年の十一月、P太郎に引っぱっていかれてその「ひさ奈」に行った。その青ちゃんが出してくれる品がいちいち旨いのである。
季節の天ぷら、魚の白焼き、味噌でいただく空豆、生もの、そばがき、そば豆腐。だからボクの酒もすすんでしまう。
「菊正宗を下さい」
ボクが接客の合間の店の女の娘にこの日何杯目かの酒を頼むと、P太郎が言った。
「お前さあ。そうやっていつも飲み過ぎて駄目になるだろう。もう少し加減をしろよ」
そんなことはいつも言われているさ、とおもいながら、ボクはP太郎の顔を見て、そうなんだよなあとおもいながら店の女の娘にお銚子を渡した。
そんな風に食べたり飲んだりして、その「ひさ奈」という店が良い店だってことは分かったので、ボクは都心で所用のあるときにはその店に寄ろうと決めている。いくらボクたちの憎っくきライバル・バンドのリーダーのそば屋であろうと、旨いものは旨いし、何よりボクは青ちゃんが好きなんだと気がついた。
「青ちゃん。このあいだボクが来たときには、ボクたちのバンドなんて眼中になかったって言ってたけどさあ」
白い割ぽう着で手を拭きながら、青ちゃんは言った。
「ああ、そうだ。眼中にもなかったね」
ボクは言った。
「ボクが青ちゃんに会いにきてさ、いっくらこの店で飲んでいても、青ちゃんと飲んだことにはならないんだよなあ。だって青ちゃんは厨房で仕事しているからね。どこに行けば青ちゃんと飲めるだろう。その、眼中になかったって話しを、もっとつっこんでしてみたいんだけど」
ボクがそう言うと、ローリング・ハブラシのリーダーの青ちゃんは言った。
「そうだなあ。今度スタジオにでも入るか」
ボクとP太郎はゲラゲラ笑って言った。
「スライド・ギターを演ってくれよ。アンタは元々ギタリストだろ。大歓迎だ」
そう言って、ボクが店の女の娘にこの日何杯目かの酒のおかわりをしたら、青ちゃんと一緒に店に立っている、ボクたちの同窓生でもある青ちゃんの奥さんが
「もういい加減にしなさい」
とボクに向かって叫んだ。P太郎が
「お前はどこにいても同じだな」
と言ったので、ボクはそうなのかなあとおもいながら、シブシブ出してもらった酒を、ゆるゆると飲んでやろうとおもった。
「ひさ奈」に行くのは二度目のことで、最初にボクをこの店に引っぱっていったのは、今やバンド仲間のP太郎で
「ともかく旨い店だから来い」
と言われてボクはその店に行った。去年の十一月のことである。
「ひさ奈」とはそれ以上に縁があって、その店の主人は、ボクやP太郎や荒井潔や池田が通っていた都立Y高校の同窓であって、なおかつライバル・バンドの「ローリング・ハブラシ」を率いるリーダーでベース・マンだった。ボクは彼らを
「女の娘にモテル」
ということと
「良い演奏をしやがる」
という理由だけで敵視していた。それはメンバーの中でボクだけの気持ちだったのだろう。それが証拠にP太郎は、「ひさ奈」の主人の青ちゃんとは個人的な関係を持っていたし、荒井にしても、大田区出身のこのバンドの連中とはつきあいがあったようだ。池田のことは知らない。何しろ奴は今どこにいるのかも分からない。いつか会えたら訊いてみよう。
ともかく、ボクは「ローリング・ハブラシ」を敵視していた。
去年の十一月、P太郎に引っぱっていかれてその「ひさ奈」に行った。その青ちゃんが出してくれる品がいちいち旨いのである。
季節の天ぷら、魚の白焼き、味噌でいただく空豆、生もの、そばがき、そば豆腐。だからボクの酒もすすんでしまう。
「菊正宗を下さい」
ボクが接客の合間の店の女の娘にこの日何杯目かの酒を頼むと、P太郎が言った。
「お前さあ。そうやっていつも飲み過ぎて駄目になるだろう。もう少し加減をしろよ」
そんなことはいつも言われているさ、とおもいながら、ボクはP太郎の顔を見て、そうなんだよなあとおもいながら店の女の娘にお銚子を渡した。
そんな風に食べたり飲んだりして、その「ひさ奈」という店が良い店だってことは分かったので、ボクは都心で所用のあるときにはその店に寄ろうと決めている。いくらボクたちの憎っくきライバル・バンドのリーダーのそば屋であろうと、旨いものは旨いし、何よりボクは青ちゃんが好きなんだと気がついた。
「青ちゃん。このあいだボクが来たときには、ボクたちのバンドなんて眼中になかったって言ってたけどさあ」
白い割ぽう着で手を拭きながら、青ちゃんは言った。
「ああ、そうだ。眼中にもなかったね」
ボクは言った。
「ボクが青ちゃんに会いにきてさ、いっくらこの店で飲んでいても、青ちゃんと飲んだことにはならないんだよなあ。だって青ちゃんは厨房で仕事しているからね。どこに行けば青ちゃんと飲めるだろう。その、眼中になかったって話しを、もっとつっこんでしてみたいんだけど」
ボクがそう言うと、ローリング・ハブラシのリーダーの青ちゃんは言った。
「そうだなあ。今度スタジオにでも入るか」
ボクとP太郎はゲラゲラ笑って言った。
「スライド・ギターを演ってくれよ。アンタは元々ギタリストだろ。大歓迎だ」
そう言って、ボクが店の女の娘にこの日何杯目かの酒のおかわりをしたら、青ちゃんと一緒に店に立っている、ボクたちの同窓生でもある青ちゃんの奥さんが
「もういい加減にしなさい」
とボクに向かって叫んだ。P太郎が
「お前はどこにいても同じだな」
と言ったので、ボクはそうなのかなあとおもいながら、シブシブ出してもらった酒を、ゆるゆると飲んでやろうとおもった。
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