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zoom RSS ライヴハウス四谷コタンとの格闘-329

<<   作成日時 : 2017/02/26 16:20   >>

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ライヴハウス・コタンはもう四谷の地ではなく、同じ新宿区の曙橋で昨年末から営業を再開しているし、そもそもこのタイトルでボクがここに文章を書き始めたことも、何もその店に対して出演者であるボクが、常に真っ向から喧嘩を挑んでいたのではない。ただ行きがかり上そういうことにしてしまっていただけで、ボクとその店との関係はこれまで、大旨良好だったといって良い。
ただその背景には、ボクにはボクの暮らしがあるし、コタンという店にもそれ相応の事情があったに違いないから、この章では、三十年に渡るその両者の側面をふたつに分けて、どちらかというとボクの独断と偏見に比重がかかりながらの今日時点のことを残しておこうとおもう。


ボクが1986年の6月にコタンのオーディションを受けるために、初めて四谷という街に足を踏み入れたとき、ボクは自分が渋谷や池袋の東急ハンズに真っ直ぐに行けないような方向音痴であることはそのときから分かっていたので、その初めての街にギターケースをぶら下げて出かけていくときに、ボクは一時間以上前にその街に降り立ってその店を目指した。しかしながら、その道のりは方向音痴なボクを差し置いても分かりづらくて、約束の時間に遅刻してボクはその店に到着した。だからという訳ではなかったことは今おもうと重々分かるのだけれど、そのオーディション会場の店内には空調も電気も灯されておらず、ピクリと笑いもしない人物が奥のボックス席に座っていて、履歴書の提出を求めることも何もないまま
「そのステージで演奏してみて下さい」
と言った。
「へっ」
「へっ、ではなく、そこで演奏してみて下さい」

その、店長らしき人物の表情は、西日がかろうじて注ぐ窓の薄日のおかげで余計にまるで分からない。ボクは何だか子供のとき外で悪さをして、親父に家に入れてもらえなかったときの、もう夕陽が暮れていくときに似た心細さに通じるものがあって、何とも心細いおもいがしたことを今でも憶えている。
ボクはそのライヴハウスのオーディションに合格したけれど
「まあ続いても半年だな」
とおもったのは、そのときの正直な感想である。
このときのそのおもいは説明不能で、つまり少なくとも店長は、ボクがその店に出演し続けるとはおもっていなかっただろし、ボクの方も
「まっぴらゴメンだ」
とおもったところがあったに違いない。ここだけの話しだけれど、その店に出演していた人たちからすればお店とも色々あったろうし、コタン側でもそういうことはたくさんあったんだろうとおもう。ボクはその店に残らない方の出演者だとおもっていた。

そんな中、そこにスパゲッティみたいに細い、ギターの上手い人がいた。稲野真人さんといって、ボクと対バンになるたびに
「おおい、お前のステージングはなってないぜ」
と言うようなアドバイスを下さるオッカナイお兄さんだった。

ボクは落語家を目指したのでもないし、稲野さんからそういうことを勉強したのでもないけれど、稲野さんはいつも言う。
「MCは大事だぜ。それからギターは楽に弾け。海の波が満ちて、また引いていくだろ。そんな感じだよ」
「野球のバッティングと同じですか」
とボクが言うと、稲野さんは
「そんなこと知るか」
と言って笑っていた。


一昨日ボクは、曙橋に移転したコタンで二度目のライヴを行った。
この晩の出演はボクの他、「こば」を欠く「いなのとひらの」、「中川オサム」。いやはや四谷時代から色々とあった人たちばかりで自然と笑ってしまう。


「旨いラーメンを出す店があるんだ。お前、興味あるか」
と店長が言う。興味があるも何も、そんなことを言われたら行ってみたいに決まっているだろうとおもいながら。
「行きましょう、行きましょう」
と言う。

ライヴ後、店内にはまだお客様が多数お酒を飲みながら賑わっていたがそんな光景を尻目に地下にある店から階段を駆け上がって
「こっちだ。ついて来い」
という店長に連れられて、狭い路地にある石段を上がって大通りに出る。何もなさそうな静かな通りだけれど
「あそこに灯りが見えるだろう。あの店だ」
と店長が指差す先に、小さな佇まいだがほんわかと温かそうな灯りを放っている店が見えた。
そういえばライヴハウス・コタンが縁で出入りするようになった四谷の街でも、こんな風にいくつかの飲食店に案内されたものだ。旨いものには鼻の効く店長は、本当に大事な旨い店には誰も連れていかなかったというウワサがあることも知っているけれど、この人がボクたちを案内する場所に関して、少なくともボクは無条件に信頼を置いている。

こじんまりとしたカウンターだけの店の左端の席に陣取る。カウンター席は半分くらいは埋まっていただろうか。店長はすでに店のお母さんとは懇意な仲であるらしく
「あらあら木村さん、新しいお客さんを連れてきてくれたの」
「大してお客にはならない奴ですがね」
などと軽口をたたき合っている。
「ちょっとタバコを買ってくる」
と言って外に出た店長と入れ替わりで、稲野さんがお客様を一人引っぱって店に入ってきた。
「ありゃ稲野さん、よく迷わずに来られましたね」
とボクが言うと稲野さんは
「さっきこの店の地図つきの名刺をキムちゃんが見せてくれてただろう。あれを見たら子供だって来られるぜ」
と真顔で言ってタバコに火をつけた。
そういえば今はスパゲッティみたいに細くはない稲野さんと、こんな風に飲食店のカウンターで肩を並べるのは初めてかも知れないなとおもいながら、ボクは木村さんが教えてくれたその店の「品書きにない緑」なる一品をいただいた。焼酎の緑茶割りなのだけれど、そんじょそこいらの緑茶とは訳の違う緑茶使用のその一品は、絶品。
そして主役のラーメンはというと、いちいち説明はしない。美味しい。

だから店の場所は教えてやらない。曙橋駅から抜弁天に向かう大通りの途中左側にある「江戸川ラーメン角久」だなんて、誰が教えてやるものか。




The Faces
「OOH LALA」
https://www.youtube.com/watch?v=LE7S9rHdMHI










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