桜井雄作のブログ

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zoom RSS Foolish school time-51

<<   作成日時 : 2005/11/11 14:44   >>

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ピヤシリの階段を駆け下りる。コタンでのライヴの前に、ここで高校時代のバンド仲間二人とおち合うことになっている。店に入ると二人ともまだ来ていない。

「また誰か来てくれはるのか」
ピヤシリの店主が嬉しそうな顔でボクに言う。
「ボクのバンド仲間がまた来るんです。遅いなあ、もう来てるとおもったのに」
ボクはビールをいただいてチビチビ飲み始めた。
「先月も来てくれはってたよなあ」
「そうです。アイツはドラマーなんですが、今日はサイド・ギターの頑固者も来ることになってまして、ピヤシリで世界一のラーメンをゆっくり食べたいというので、ここで待ち合わせしてます」

ほどなく、P太郎が階段を下りて店に入ってきた。
「よお。待ったぞ」
「あれ、もう来てたのか。ちゃんとリハーサルはしたんだろうな」
「お前たちが来るから慌ててすませてきたんだ。先にやっているぞ」
P太郎もビールを注文して言った。
「今日はお前の言うところの世界一の味噌ラーメンを食べるつもりだ。このあいだはしょうゆを食べて、あれも旨かったが、今日は世界一だ」
「そうか。是非食べてみてくれ。そこいらの味噌汁ラーメンとは違う本当の味噌ラーメンだ」
ピヤシリ店主はカウンターの向こうで、また始まったという顔をした。

角煮と煮玉子を出してもらって、ボクたちは乾杯した。
「どうだこの角煮、旨いだろう」
ボクが言うとP太郎は言った。
「旨いなあ。これはいわゆる中華風の角煮ではないな」
「半分はビールのつまみで食べていいけど、半分は残しておいてあとで頼む味噌ラーメンに入れて食べてみな。ラーメンの味が一味変わって二度おいしいんだ」
「ラーメンに合うように作られた角煮という訳か」
「そうだ。その中が半熟の煮卵もな。これだって世界一だぜ」
ボクが真顔で言うと、ピヤシリ店主は大笑いした。

P太郎が言った。
「今日はきよしちゃん来るんだろう」
「ああ、ここに来るって言ってたよ」
ちょうどそのときP太郎の携帯に荒井潔からメールが入った。
「何だって」
「えーと、東横線で人身事故、遅れる、だとさ。相変わらず律儀な奴だな」
「そして頑固だよ」
「そんなのは昔からだろう。よく分かっているよ」
「いや、だからそれに磨きがかかったということだよ」
「あれ以上頑固になりようがないじゃないか。逆に丸くなるころだぜ」
「会えば分かるよ。もう何年も会ってないんだろう」
「そうだなあ、だいぶ過つなあ」
そう言ってP太郎は
「世界一の味噌ラーメンを下さい」
とピヤシリ店主に注文した。

P太郎が味噌ラーメンを食べ始めた。
「どうだ。旨いか」
「お前の言うとおりだ。旨い。世界一だ」
ボクは嬉しくなってピヤシリ店主に言った。
「ほら、ボクだけじゃないでしょ、世界一だっておもうのは。P太郎は良いところの倅で、子供のころから旨いモノしか食べなかったんですよ。そういう男も世界一だって言うんだから間違いありません。おかげで腹がだいぶ出てしまったけどなあ」
ピヤシリ店主は、優しい顔で笑った。

しばらくすると荒井潔が店に入ってきた。ボクは言った。
「あれ、案外早かったじゃないか」
荒井は言った。
「山手線と総武線の中を走ってきたんだ。それよりP太郎、お前の食べているのは何だ」
P太郎は言った。
「ご挨拶だなあ。久しぶりとか何かあるだろう。最初の一声としては」
荒井が言った。
「そうだったな。よう久しぶり。それよりお前太ったな」
荒井はP太郎と同じ世界一の味噌ラーメンとビールを注文した。

世界一の味噌ラーメンをすすっているP太郎に荒井が言った。
「P太郎、お前はバンド演ってるのか」
ボクが替わりに答えた。
「ボサノバだってさ。ボクはベースで誘われているんだ。もちろん断るつもりだけどね」
荒井が言った。
「ボサノバあ。お前も相変わらず訳の分からん男だな」
ラーメンに一区切りつけたP太郎が言った。
「お前らは知らないだろうがな、面白いんだぞ演ってみると。それよりさ、ゆーさくバンドやる気あるか」
「ボクは良いよ。だけど池田がいないぜ。連絡の取りようはあるのか」
荒井が言った。
「池田からこちら側の誰かに連絡を取ってくるしかないだろうが、アイツはそういう奴ではないな」
ボクは言った。
「新聞の尋ね人に広告を載せるか」
P太郎が言った。
「金がかかるんだぜ。そこまでの価値は今のところないようにおもうけどなあ」
ボクは言った。
「それじゃあ三人でやるとして、池田の代わりのリードはP太郎だな。この中では一番ギターが上手い」
P太郎が言った。
「スリーフィンガーは出来ないけどな。それでゆーさくがベースとして、ところできよしちゃんギターは弾けるのか」
「そういえば、最後に触ってから一年以上過つかな」
P太郎が言った。
「それじゃあ現場復帰にはしばらくかかるなあ。練習始めろよ」
ボクは言った。
「大丈夫だよ。四十過ぎてギター始めてライヴやってる人だっているんだぜ。昔やってたんだから始めればすぐ憶いだすよ」
荒井の前にも、世界一の味噌ラーメンがきた。

世界一の味噌ラーメンを先に片づけたP太郎が、タバコに火をつけて言った。
「ところで、バンドをやるのは良いがどこでライヴする。やっぱりライヴしなきゃ意味がないだろう」
ボクは言った。
「Y高が秋の学園祭に呼んでくれないかなあ」
「馬鹿。こんな無名のおじさんたちを誰が呼ぶものか」
「無断でやるってのはどうだ。今でも講堂くらいあるんだろ。建物は新しくなったけど」
「お前馬鹿か。今度こそ家宅侵入罪で逮捕されるぞ。あのときは穏便にすませてもらったが」
「OBを警察に突き出すようなマネを学校がするかあ」
「するに決まってるだろうが馬鹿。それで、四十男三人、母校の講堂をジャック。動機は母校の講堂でライヴがしたかったためって、翌日の新聞に載るんだ。俺には妻子もあるし、今度はお断りだぜ」
荒井がそう言ったので、ボクは言った。
「そうかあ、それではただの笑い者だなあ」
P太郎が言った。
「コタンは出演者募集してないのか」
ボクは言った。
「あっ、そうか。してるしてる。木村さんに頼んでオーディション受けさせてもらえば良いんだ」
P太郎が言った。
「それじゃあそれで良いじゃないか。三人で音が聴かせられるようになったら、コタンのオーディションを受ければ。ところでお前、今夜のライヴはいいのか」
ボクは時計を見て慌てた。
「うわあ、しまった。もうこんな時間だあ。ごちそうさまでした。もう行きます」
荒井が
「俺はもうすこしゆっくりしてから行くよ」
と言うので、ボクはP太郎とすっかり肌寒くなった十一月の夜道に飛び出した。




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